【コラム】変容する音楽文化(2)
琵琶が外来楽器であるように、三味線もやはり外来楽器です。
そして、ギターもバイオリンも外来楽器です。
琵琶・三味線と、ギター・バイオリンの大きな違いは、
前者が中国大陸由来であること、
後者がヨーロッパ由来であることでしょう。
また、前者のほうが年代的に古くから日本に存在し、
後者は比較的新しい楽器と言うこともできます。
しかし、海外からやってきた弦楽器という点では共通しています。
少し勘の鋭い方なら、お判りでしょう。
海外からやって来た琵琶や三味線が、本当は外来楽器なのに、
いつの頃からか「日本の伝統楽器」と認識されるようになったのなら、
ギターやバイオリンも、
いずれ「日本の伝統楽器」と認識されるようになる日が来るのでは?
「そんな日はすでに来ている」というのが、音楽史研究者の印象です。
たとえば、古賀政男が作曲した、
『影を慕いて』(1932)、『湯の町エレジー』(1948)、『悲しい酒』(1966)。
どれもイントロにギターが効果的に使われている昭和歌謡です。
木村好夫やアントニオ古賀といったギターの名手を思い出すかもしれません。
もちろん、大学の授業でこのような話をしても、
平成生まれの学生たちは「全く知りません!」と言ってくるので、
教壇の(昭和生まれの)私は少し寂しい思いをします。
しかし、これらの曲のイントロで鳴り響くギターの音色を学生たちに聴かせると、
「すごく日本的だと思った」
「演歌は日本人の心ですね」
「琴線に響きました。和を感じます」
というような感想が多数、寄せられます。
でも、ギターは、イベリア半島に由来するヨーロッパの弦楽器です。
古賀政男が青年だった頃、ギターやマンドリンは、
西洋を象徴するオシャレでカッコいい楽器でした。
西洋志向の強い都会の大学生たちは、この楽器に魅了されました。
それからまだ百年も経過していないにもかかわらず、
私たちは古賀政男のギターに「日本」を感じるほどになっています。
もちろん、現代日本では、クラシックギター、ジャズギター、ロックギターなど、
西洋の楽器としてのギターのほうが盛んかもしれません。
しかし、着々とギターの「伝統楽器化」は進行しています。
大阪では、盆踊り(河内音頭)にエレキギターを使うことが、何十年も前から定着しています。
文:静岡文化芸術大学 教授 奥中康人