【コラム】浜松の歌謡曲(1)「ゆ・れ・て浜松」
「ご当地ソング」とは、曲名や、歌詞の中に、特定の地方の地名、山や川、風習や文化が取り入れられているポピュラー音楽(歌謡曲)で、駅前にスタバがあるくらいの町なら、どんな町にも存在するはずです。
Wikipediaによると、美川憲一の「柳ケ瀬ブルース」(1966)を宣伝する際に、発売元のクラウンレコードの担当者が使いはじめた言葉とされていますが、それよりずっと大昔から、土地と結びついた「広義のご当地ソング」は、たくさん存在しました。ただし、「狭義のご当地ソング」となると、やはり1960~80年頃の「柳ケ瀬ブルース」的な歌謡曲ではないでしょうか。
しかし、大ヒットしたわずかな例外を除いて、多くは二匹目の泥鰌を狙って量産されたもので、たいして面白くありません。「歌詞の中の地名を、別の地名に入れ替えても成立する」などと揶揄されていて、私も関心を持っていませんでした。
ところが、それは偏見で、大ヒットこそしなかったものの、なかなか魅力的な音楽であることを気づかせてくれたのは、浜松のあるグループの方々でした。
2015年に、「“浜松の音楽資源”についての講演を」と依頼があったのです。二ツ返事で引き受けたものの、「音楽のまち 浜松」なんていう惹句にウンザリしている私は、さて講演内容をどうしよう、と思案しつつ、偶然入った近所の中古レコード屋にあったシングルレコードに、釘付けになってしまいました。
萩原冴子・神戸一郎の「ゆ・れ・て浜松」は、ジャケット写真の雰囲気から察すると、1980年代につくられたようです(〈三年目の浮気〉等が流行していた頃?)。典型的な「ご当地ソング」で、二人とも歌は大変上手ですが、それだけで大ヒットするとは限らないのが音楽業界。
でも、よく考えてみれば、「大ヒットした/しなかった」は、このレコードや楽曲の「質の高/低」とは無関係です。世の中には、レベルが低いのに大ヒットしたレコードもあれば、レベルが高いのにヒットしなかったレコードもあります(後者がどれほど多いことか)。
「ゆ・れ・て浜松」は、間違いなく高いレベルです。しかも、歌詞のなかにでてくる「元城町」「佐鳴台」「有楽あたり」というローカルな地名が、市民のハートをつかみます。
ところが、こんな貴重な私たちの「音楽資源」が、以前から存在したにもかかわらず、浜松の市立図書館では聴くことができず、中古レコード屋に埋もれているのは、残念でなりません。
文:静岡文化芸術大学 教授 奥中康人