【コラム】地域の音楽文化(2)―浜松まつり(その2)―

浜松まつりの主役が、初子・初凧であることに異議を唱える人はいないでしょう。ただ、音楽文化を研究している私は、どうしてもラッパから目を離すことができません。

浜松まつりで用いられるラッパには、2つの種類があります。金属の管を2重に巻いてあるのが「2巻」、3重に巻いてあるのが「3巻」です(「2連」「3連」ともいいます)。

「2巻」(左)と「3巻」(右)

それぞれ管の長さが異なるので、「2巻」と「3巻」は音の高さが違い、管の長さが短い「2巻」のほうが高い音が出ます。

「2巻」のラッパ(上)と「3巻」のラッパ(下)
「2巻」のほうが大きく見えるが、管の長さは「3巻」より短い

どちらのタイプのラッパを用いるかは、町によって異なります。
それゆえ、「ラッパだったら、どれも同じでしょ?」と、安易に「2巻」を購入したら、自分の町内で用いるラッパは「3巻」だった、となるかもしれないので、ラッパを購入する際には、事前に町内で使用されるラッパの種類を確認しておかなければなりません。

きちんと調査をしたわけではありませんが、わたしが観察する限りでは、「2巻」と「3巻」の割合は「3:7」くらいで、「3巻」が多い印象です。おそらく、「3巻」ほうが、子どもにも吹きやすいという理由で、広く採用されているのでしょう。

ラッパに「2巻」と「3巻」の2種類が存在することについては、ラッパを手にしたことがある人にはよく知られたことですが、実は、「3巻」のなかに、さらに2つの種類あることは、あまり知られていません。

一般に「3巻」のラッパは、「ソ・シ・レ」の音が出ます。ところが、海外メーカー(主に廉価な台湾製)の「3巻」には、「ソ・シ・レ」よりも半音くらい低い「ソ♭・シ♭・レ♭」の音が出るラッパがあります。
どちらも同じ「3巻」の形状なので、パっと見るだけでは区別がつきません。また、「ソ」と「ソ♭」の微妙な半音の違いを、聴き分けるのも困難です。

どちらも「3巻」ラッパ: 「ソ・シ・レ」(下)と「ソ♭・シ♭・レ♭」(上)

区別がつきにくいので、ときどき、異なる「3巻」ラッパで「ソ」と「ソ♭」を同時に鳴らすことがあります。しかし、どんなに上手な人々が吹いたとしても、これは必ず耳を覆いたくなる不快なサウンドになってしまいます。
これでは、「ラッパがうるさい!」というクレームの嵐に見舞われるのも、至極当然です。

「ラッパがうるさい!」というクレームを少しでも減らしたければ、「3巻」ラッパを統一して、快適なサウンドにすることが喫緊の課題です。
ところが、概していうと、楽器として品質の良い「ソ・シ・レ」ラッパを愛好する人々が、やや品質の劣る「ソ♭・シ♭・レ♭」に鞍替えすることは、心情的に抵抗感があるようです。また、廉価であるがゆえに「ソ♭・シ♭・レ♭」ラッパを購入した人々が、高価な「ソ・シ・レ」を購入することは、経済的に難しいでしょう。

「ソ」と「ソ♭」が同時に鳴ることによる不快なサウンドを、「これこそ浜松らしさ!」と、開き直ることもできるでしょう。
でも、もし可能なら、たとえば浜松の大手楽器メーカーが、採算を度外視した廉価な「ソ・シ・レ」ラッパを供給し、それを篤志家が買い取って、各町に寄贈することで、地域貢献してくれることを願ってやみません。

文:静岡文化芸術大学 教授 奥中康人